
グローバル競争下で競争優位性を保つために―「会社の収益に貢献する調達へのシフト」を果たした矢崎総業の挑戦


社名
矢崎総業株式会社
従業員数
国内:17,873名・海外:223,611名・計:241,484名
事業内容
自動車用ワイヤーハーネスをはじめ、電線、ガス機器、空調機器、太陽熱利用機器まで、多種多彩な製品を開発。
課題
・「納期最優先」によるコスト評価の不足
・業務プロセスの不透明化
・発注先の固定化
自動車用ワイヤーハーネスで世界トップシェアを誇る矢崎総業株式会社。業界のEV化やグローバル競争の激化を受け、設備・資材調達部では「納期重視」から「コスト最適化・収益貢献」へのシフトを進めていました。
膨大な見積対応による業務のブラックボックス化を解消するため同社が選んだのは、短期間・低コストで導入できるリーナーでした。導入後は当初の想定を超える工数削減率56%を達成。
本事例では、劇的な業務効率化と調達の質向上を両立させた取り組みの全貌に迫ります。
【本事例のポイント】
導入の背景:EV化等に伴う構造変化の中、「納期追われ」から「コスト精査・収益貢献」へ調達の役割をシフト
選定の決め手:大型BSMプラットフォームに比べ、短期間・低コストで早期改善効果が得られる点
導入の成果:見積もり業務工数を56%削減。生み出した時間で見積精査と相見積もり率向上を実現
■お話を伺った方
矢崎総業株式会社
SCM室 管理統括部 設備・資材調達部 部長 三枝様
W/H設備調達チームリーダー 牧野様
W/H設備供給チームリーダー 山本様
― まず最初に、貴社の事業について教えてください。
三枝様:矢崎総業株式会社の事業として、まず挙げられるのが自動車用ワイヤーハーネスです。同市場において世界トップクラスのシェアを誇り、世界46カ国・148法人の拠点を軸にグローバルな事業を展開しています。
また、ワイヤーハーネスにとどまらず、幅広い領域で事業を手掛けている点も特徴です。
自動車機器事業: ワイヤーハーネスに加え、自動車用メーター、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)向けの充電コネクタなどを製造・販売しています。
生活環境機器事業: 電線、ガス機器、空調機器をはじめとする環境エネルギー機器や、タクシーメーターに代表される計装機器などを製造・販売しています。
新規事業: 環境・リサイクル、介護、農業、食品など、多様な分野で新たな事業を展開しています。
― 現在、リーナーをご活用いただいている設備・資材調達部の日々の業務とミッションについて教えてください。
三枝様: 設備・資材調達部は、当社の主力製品であるワイヤーハーネスを製造するための設備や治工具、消耗パーツを協力仕入先から調達し、国内外の工場へ安定供給する業務を担っています。
設備・資材調達部でワイヤーハーネス製造設備・治工具の調達業務を担当しているのは、「W/H(ワイヤーハーネス)設備調達チーム(11名)」と「W/H設備供給チーム(16名)」の2チームで、部長の私を含めた計28名で運用しています。
ワイヤーハーネス用製造設備は、自動車メーカー様の車輛開発日程に合わせて生産拠点へ供給する必要があり、日程通りに納期を間に合わせることが常に求められます。国内外の生産工場から設備や治工具を受注し、QCD(品質・コスト・納期)において最適な仕入先を選定したうえで、納期通りに設備を供給することが私たちの最大のミッションです。
― リーナー導入前、調達業務においてどのような課題を抱えていましたか?
三枝様: ワイヤーハーネスを生産するための製造設備は非常に構成部品が多く、毎月1,000点ほどの見積もり対応を行っていました。お客様であるカーメーカー様の開発日程に合わせて供給する必要があるため、「納期を守ること」を最優先で進めていました。
それと同時に、設備の価格を適正に抑える「コスト管理」も非常に重要です。しかし、どうしても日々の手元の業務が優先となってしまい、コスト面の評価が十分に行えているのか分からないと言う状況にありました。
― 納期重視の調達から、「コスト」へも注力する方針へと舵を切った理由は何だったのでしょうか?
三枝様: 最も大きな理由は、調達部門として「会社の収益向上に貢献する」という本来の使命を果たすためです。

私たちが調達する設備は、工場のチャージ(設備や人の時間単価)に直接反映されます。もし高価な設備を導入し続けてしまえば、高いチャージが設定され、結果として当社が製造する製品の価格も上がってしまいます。私たちは、それが市場における製品競争力の低下を招くことを強く危惧していました。
その背景には、昨今の自動車業界を取り巻く劇的な環境変化があります。現在、車は従来のガソリン車から、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、そして電気自動車(EV)へと急速にシフトしており、車両の構造そのものが大きく変わってきています。それに伴い、私たちが扱う製品も従来の低電圧向けから、高電圧に対応したユニット製品や電装製品へと変化しました。当然、それらを作るための製造設備や、必要となる機械部品・電気部品といった構成部品も全く新しいものへと変わり続けています。
さらに、市場における競争環境も厳しさを増しています。私たちはこれまで国内を中心としたソーシングを行ってきましたが、近年は中国をはじめとする新興の海外メーカーが多数台頭してきています。グローバルで自動車部品の生産を行う私たちが競争に勝つためには、こうした海外メーカーに打ち勝てる、強靭で競争力のあるサプライチェーンを構築しなければなりません。
激変する業界構造とグローバル競争の中で自社の優位性を保つためには、単に「納期に間に合わせる」だけでなく、変化に追従しながら適正なコストで最適な調達を行う必要があります。これを通じて会社の収益力と製品競争力を底上げしていくことこそが、私たち調達部門が担うべき重要な役割だと考えています。
ーリーナーの導入前に現場で感じられていた業務の課題について具体的に教えてください。
牧野様: 一番苦労していたのは、案件の進捗が一目で把握できないことでした。当時の見積もり体制ではパーツごとに3つのグループに分かれて業務を行っていたため、それぞれの状況を個別に確認しなければならず、非常に非効率な状態でした。
従来は、チームやグループ単位で作成したExcelの進捗管理表で追っていましたが、毎月の案件数が膨大なため、業務が多忙になると管理表への入力が漏れて最新状況が追えなくなってしまうという問題が生じていました。
山本様: 仕入先様によって見積回答のスピードにバラつきがあるため、回答が遅れている案件の催促業務に手間がかかっていました。また、過去の提示価格や「なぜその価格になったのか」といった理由を調べる際にも、過去のメールをさかのぼって探さねばならず、多くの時間を使っていて、業務負荷がかかっていました。

三枝様:マネジメント視点で見ると、業務プロセスが可視化されていないことで健全な競争環境を作れていない点が大きな問題でした。品目ごとに依頼するサプライヤー様が固定化してしまい、結局はいつも決まったA社に発注してしまうケースが多く発生していたのです。本来行うべき「競争を生む仕組みづくり」ができていなかったことは、部門として解決すべき課題でした。
また管理者としても、誰がどの案件をどこまで進めているのか、どんな課題を抱えているのかといった進捗や業務状況が見えづらい状態でした。結果として案件全体の可視化ができておらず、「本当に最適なソーシングができているのか」を判断できない状況でした。
― リーナーを導入するにあたって、どのように検討を進められたのでしょうか?選定理由も含めて教えてください。
三枝様:当社の欧米拠点では、以前から購買・支出管理を行うBSM(業務支出管理)プラットフォームを導入し、ワイヤーハーネス用設備だけでなく梱包資材や工場消耗品といった間接材の一元管理を行っていました。そして、同様に日本を含めたアジア域においても、システム化の検討を進めていました。
しかし、大型のBSMプラットフォームは、実用化に至るまでのコンサルティング費用をはじめとする導入コストや、立ち上げにかかる期間が非常に大きいことがネックでした。そのため、アジア域での導入は投資対効果の観点から保留になっていました。
そうした中でご紹介いただいたのがリーナーでした。将来的に私たちがイメージしている、査定購買の実現に向けて必要な機能は、大型BSMと比べてもそんなに差はありませんでした。そのうえで決定打となったのが「導入期間の短さ」と「導入コストの低さ」です。時間をかけて大がかりなシステムを入れるよりも、短期間・低コストで導入して早期に改善効果を得たいと考え、リーナーの導入を決定しました。
― 導入にあたり、費用対効果はどのように試算・評価されたのでしょうか?
三枝様: 本来の目的である「競争環境を作った結果得られる効果」を事前に予測するのは難しかったため、私たちはまず担当者1人あたりの見積もり業務にかかる「工数」に着目しました。
どの作業にどれだけの時間を要しているのかを分析し、リーナー様の協力のもとでシミュレーションを実施した結果、業務時間を約26%削減できるという試算が出ました。特に、従来メールで行っていた「見積依頼書の作成・送付」や「仕入先様からの回答回収」にかかっていた時間を大幅に短縮できることが分かりました。
この効率化によって生まれた時間を、見積内容の精査や査定といった本質的な業務に充てることがリーナー導入の狙いです。これまでは回答の回収や管理表への登録作業だけで精一杯だった側面もありましたが、工数の削減によって時間を生み出し、より適正な価格での調達につなげることができると評価しました。
― リーナー導入にあたって、不安や懸念点はありましたか?
三枝様: 当社には長年運用してきたレガシーシステムがあり、受注、出荷、支払い等の業務が既存システムで運用されていました。見積り業務のどこまでを標準化し、業務の連携をスムーズにできるのか、という点は少し懸念していました。
― その「業務の連携」に関する懸念は、どのように解消されたのでしょうか?
三枝様:私たちが意識したのはリーナーに合わせて仕事を変えることです。
そうでないと、導入期間も長くなってしまいます。自分たちの仕事のやり方や業務フローをリーナーのシステム側に合わせるアプローチを取り意識しました。
― 「業務フローを変える」となると、現場での混乱や抵抗はありませんでしたか?
三枝様:正直なところ、スタート当初は現場のメンバーも「本当にこれでうまくいくのだろうか」と疑心暗鬼な部分があったと思います。
山本様: 実際に運用してみると、実務面でのメリットが大きかったです。これまでメールでやり取りしていた見積書などの帳票類は、別途ファイルサーバー等に保管し直す必要がありました。
リーナーを使えばシステム上でそのまま帳票を保管できるため、その作業の手間が削減できます。電子帳簿保存法への対応も含め、「現場にとっても業務が楽になるメリットがある」ということを伝えながら浸透させていきました。
牧野様: 従来のやり方が大きく変わるため、担当者レベルでは当初多少の抵抗感があったかもしれませんが、実際にリーナーへ切り替えてからは特に大きな混乱や苦情もなく、非常にスムーズに移行できたと感じています。

山本様: もう一つ不安だったのが「仕入先様への対応」でした。これまで、こうした見積システムがなかったため、仕入先様がシステム利用にご協力いただけるか、説明にどれだけコストがかかるのかを心配していました。しかし、そこはリーナーのカスタマーサクセスチームが手厚くサポートしてくださり、説明の手間も含めて対応していただけたので負担もなく、非常に助かりました。
―リーナーの導入によって、現場の業務や管理方法にはどのような効果がありましたか?
三枝様: 見積もりは契約に直結する非常に重要なプロセスなので、やり取りの記録をしっかり残しておく必要があります。しかし、毎月数千点におよぶ案件数を扱っていると、一品一品の商談履歴を個別に記録・保存していくのは現実的に不可能です。リーナーを導入したことで、それらのやり取りがすべてシステム上に一元的に記録・蓄積されるようになったのは、非常に大きなメリットだと実感しています。
コミュニケーション面では、リーナー上でメッセージが完結するため、社内や仕入先様とのメールのやり取りが大幅に減っています。
管理者としては、以前は確認のためにCC入れてくれているメールのチェック作業に大変な手間がかかっていましたが、今はリーナーで案件ごとに確認、チャットでメンバーとコミュニケーションが取れるので、管理上の確認工数も劇的に削減されています。

導入にあたっては一気に進めるのではなく、簡単なパーツ類からリーナーを使い始め、徐々に複雑な設備の見積へとステップを踏みました。構成部品レベルでの見積もりが必要な設備については、当初仕入先様から懸念の声もありましたが、「明細書をファイル添付でアップロードできますよ」といった具体的な使い方を説明することで、「それなら使えますね」といようなやりとりもありました。
結果として、仕入先様にとっても、業務工数の削減につながっていると感じています。導入当初は使い方の質問もありましたが、リーナー様による説明会を実施したことで疑問や不安が解消され、その後はほとんど問い合わせもなく、スムーズに使っていただけています。
牧野様: 管理者の視点からも、担当者とサプライヤー様とのチャットのやり取りを直接確認できるようになりました。進捗や交渉内容をリアルタイムで追えるため、必要に応じて私自身が会話に入って補足したり、フォローに入ったりといったアプローチもスムーズに行えています。
三枝様:やはり、現場の担当者がシステム操作に慣れるにつれて作業速度が上がり、当初予測していた以上の成果が出ています。導入前のシミュレーションでは「工数削減率26%」と試算していましたが、実績としてはそれを大幅に上回る56%の工数削減を達成できました。
牧野様: 案件数の多い時期と落ち着いている時期の波はありますが、作業工数が削減したことで、見積処理以外の「本来注力すべき業務」に割ける時間が増えたと実感しています。提出された見積データの内容を分析・精査するところに、費やせる時間が増えました。
山本様: 今年の2月に組織変更があり担当者の入れ替わりもありましたが、導入前後のデータを比較すると、早期からリーナーでの調達へ切り替えた保守部品や治工具の担当チームは、過去と比べて残業時間が大幅に減少していました。
三枝様:以前は案件に追われるように業務を行っていましたが、リーナーを導入したことで全体の進捗状況が把握できるようになり、自分自身で業務をコントロールしやすくなったことで担当者の業務への意識も「納期」から「見積の精査」へと変わっていると感じています。
―リーナーによって業務状況が可視化されたことで、生まれた変化はありますか?
三枝様: まず、1社のみで見積もりを行っている単独見積もりの案件が、想像以上に多く残っていることがデータで浮き彫りになりました。物によっては、1社でしか対応できない案件もありますが、検討次第で競合を行える案件も多々あります。これまでは、感覚で捉えていた課題が明確になり、打つべき対策が明確に判断できるようになりました。
具体的には、すぐに相見積もりが取れる案件は即座に複数社へ見積もりを依頼し、図面などの関係で時間を要するものは改善テーマとして計画的に取り組むなどです。
こうした可視化とアクションを徹底した結果、部署全体で相見積もりの取得率が着実に向上しています。
山本様:各担当者の抱えている業務量や案件数が可視化されたことも大きな発見でした。これまでは「EV用設備担当」のように専門領域で役割分担をしていたため、個人の処理件数までは正確に把握できていませんでした。実際に数値で見ると、思っていた以上に業務量に個人差があることが分かりました。
三枝様: 以前は一部の担当者に時間外労働が偏ってしまう傾向がありました。データでその実態が見えたことで、各個人のスキルやノウハウに依存している業務を標準化し、平準化を進めていかなければならないことに、改めて気づかされました。
― 今後目指しているリーナーの活用について教えてください。
三枝様: 現在リーナーでカバーしているのは見積もり業務のフェーズですが、将来的には受注から発注、さらには需要分析を行い、より強い競争環境を構築するまで一貫してつなげていきたいと考えています。
また、真の競争環境を作るという意味では、既存のサプライヤー様だけに依存する現状からの脱却も必要だと感じています。QCDに優れた新しいサプライヤー様を積極的に発掘・採用し、サプライチェーンの強化を図っていく必要があります。
現状は運用の定着化を図った段階であり、取り組みとしては「比較購買」にとどまっています。今後はこのレベルを引き上げ、まずは「査定購買」を実現させたいと考えています。
現在は提示された単価同士を比較する段階ですが、今後は材料費・管理費・物流費といった内訳をブレイクダウンし、担当者自身が「妥当性のある価格で調達できているか」を的確に評価・判断できるようにしたいです。そして、リーナーをそのための非常に有益なツールとして活用していく計画です。
ーありがとうございました。